漁船にのって・・・
サケ・マス定置網漁を体験
 「定置網を上げるぞ!」との誘いに暗いうちにおきて能取湖へ。髭の井上氏ら総勢10人は、2隻の漁船にのりこみ、定置網のしかけられた対岸へ向かう。能取湖の定置網漁初日だ。


港の朝は早い。漁船は薄暗い海面をホスベ(フルスピードという意味)で目的地にむけ、まっしぐらに進んでいく。目標物のない海面のどこに定置網が仕掛けてあるのだろうか?操舵室にとりつけられたGPS(「カーナビ」のようにマップ情報と衛星から注がれるの位置情報を合成して表示するシステム)のカラフルなモニターを見ながら、目的の網の真上に船をピタリとつけることができるのだ。

2隻の漁船が定置網に到着、網を挟むようにして片側から網をたぐり寄せていく。すでにサケ・マスが大きくジャンプし、しぶきをあげて海面に落ちる。この定置網の仕掛けは、海面からではよくわからないが、魚の習性を利用して、目的の魚が入ってくると後戻りできないようになっているという。
 


 
徐々に網の間が狭くなり、サケ・マスの姿が海面に出てくると船の中で一段高いエンジンの上に陣取って、カメラを構えている私の頭上にも水しぶきがかかる。小魚は「ピチピチはねる」というが、体重4〜5キロにもなるサケ・マスがはねると「ピチピチ」どころじゃない。静かな海がこの「バシャバシャ」で大荒れになるのだ。
 

船を寄せるだけ寄せておいて、巨大なタモ網でサケを20匹くらいいっぺんにすくう。持つだけでも重くて大変そうなタモ網だが、4方にロープが取り付けてあり、すくう動作、持ち上げる動作など船の動力(巻き取り装置)を利用して、行うようになっている。とても人力ではかなわない。
すくったサケ・マスは、船の中央に置かれた大きなコンテナに入れるが、たちまち満杯になる。サケはまだ網の中にたっぷりと残っているが・・・・。出漁前に井上氏が、胴付きを着ろ、ビデオや三脚は操舵室に入れといたほうがいいぞと言っていた理由が分かった。コンテナを溢れたサケが、船の甲板ではねる。その上にまたサケが重なる。最初は甲板のサケをまたぎながら歩けたが、そのうち歩く場所がなくなりサケの積み重なった層の上を踏んで歩くしかなくなってしまった。甲板にビデオカメラを置いていたら、今ごろサケの層の下になっていただろう。サケの重みで船が沈んできたころ、もう1隻の船に同じようにサケを詰め込む。あちらの船も満杯になった。


港へ向かう船の中、サケの重なりの中に足を入れたまま、サケと同化している自分を発見する。飛び跳ねるサケのしぶきをくぐっているうちに、サケのぬるぬるが全身にしみわたっていたのだ。
港に到着するとすぐさまサケの選別がはじまる。サケの雄、雌、カラフトマスに分類して、コンテナつめなおす。カラフトマスは、マス独特の斑点があるので見分けることができるが、雌雄判別はなかなか微妙だ。鼻が突き出て曲がっているという特徴的なサケばかりではない。銀毛と呼ばれる銀色の魚体もあれば、ブナと呼ばれる婚姻色に身体を染めた魚体もあり、素人に判別は難しい。
約1時間後、仕分けされたサケ・マスは、ダンプに載せられ出荷されていった。このサケは誰が食べるのだろうか。残念な話であるが、大漁のときは加工が間に合わないので、人間よりも家畜用になるのだ。雌サケの卵(いくら)は加工されるが、雄サケやカラフトマスの多くは、フィッシュミールとして主に家畜の飼料になってしまうとのこと。サケ・マスの孵化事業が軌道に乗り、漁獲量が増え、供給が安定すると値段が下がる。浜の値段は、安いとき特大のサケ1匹がたったの数百円になることもあるそうだ。最近は輸出されるようにもなった。
持てるだけもってけ!という気前のよい漁師さんの言葉に、サケとカラフトマスを持てるだけいただいて帰った。4匹もつかむのが精一杯。その日は鱒のチャンチャン焼きと鮭の味噌鍋。翌日はムニエルに。残った切り身は刺し身用に冷凍。いくらは醤油付け。余すところなく新鮮な味をたんのうすることができた。その夜、オホーツク海の恵みと漁師さんに感謝して祝杯となったことはいうまでもない。(おわり) 
 

サケマス定置網漁のFlashムービー
 
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