真夏のスナイパー

北海道では八月のお盆が過ぎるとそろそろ秋の気配がしてきます。
今年は七月から暑い日が続き夏らしい毎日でした、全国的に猛暑の夏と言えるでしょう。我が家の庭でも一気に開花時期を迎えた花々が色とりどりに咲き出し北海道の短い夏を彩ってくれました。
その花には蝶や蜂などが蜜を求めて飛び交っていましたが、例年になく蜂が多いように思いました。居間の南側に面したテラスの引き戸は全開にして網戸で虫の侵入を防ぎ夏の心地よい風が入るようにしていました。時折出入りのために網戸を開けようとするとスズメバチがとまっていて驚くことが再三ありました。きっと近くに営巣しているようだなと調べてみると、母屋の庇とテラスの庇の隙間の奥に直径15センチ程の大きさの巣があってしきりに蜂が出入りしています。
身体は黒色で白い斑紋があり、スズメバチでは小型の黒スズメバチです。
まもなく夏休みの孫たちが遊びに来てベランダからの出入りも多くなります、これは早速駆除しておかなければとホームセンターに薬剤を買いに出かけました。ニュースで報じられているように猛暑の夏にはスズメバチの活動が活発になるそうで今年は需要も多いらしく幾種類もの駆除剤が並んでいました。
最初私は危なくないように巣のそばに燻煙剤を仕掛けてやろうと思っていましたが、スプレーで射程距離4メーターという蜂の巣専用の品があるのを見つけ、これだけ離れて噴霧出来るのなら大丈夫と思い購入してきました。脚立をたて梯子の部分に乗って身体を安定させ、足場の部分にスプレーを固定し狙いは巣の出入り口に定めてレバーを引きました。
ちょうど洗車機のノズルから出る水流のようにシューっと薬品が噴霧されて見事蜂が出入りしている巣の中心の穴に命中しました。その辺にいた数匹はすぐに下に落ち飛べません何事かと巣の中から出てくるのに数回噴霧してやると全部で二十匹
くらいが下に落ちていました。しばらくして様子を窺って見ても出入りの気配がありません、どうやら全滅したらしいので長い竹竿で払い落としました。巣を開いて見ると中には何層にも重なった個室があり幼虫が入っていて、まもなく羽化するばかりに成長したものもいました。
後でインターネットで調べてみたら地域によってはこの蜂の子を(”へぼ”,”地蜂”などと呼ばれ,幼虫や蛹を珍味として食用にします)と載っていました。私には食用にする勇気もありませんのでそっくり地中に埋めて一件落着となりました。
翌日もういないだろうなと庭のあちこちを見て歩くと昨日駆除した小型のではなく大型の大スズメバチが目に付きました。今まで、あまり気にしてはいませんでしたがひょっとして近くに巣が在るのではと思い観察していると、どうも家の西側の壁にそって積んである植木鉢などを入れた箱の陰から出てくるようです。
大スズメバチは獰猛で刺されると大事です、私は釣りの帰りに藪をこいでいて刺された経験があります、一度目より抗体の出来た二度目が危険だといわれているので十分に注意しなければなりません。
夜になって蜂が行動しなくなってから注意深く壁にそって積んであった箱を移動し観察しやすくしておきました。
翌日観察していると箱の陰で見えなかったところにある家の土台の通風孔から出入りしているのが解りました。縁の下に巣を作っているようです。通風孔はスライドシャッターのような作りになっていて開閉が出来ます。冬期間以外は開けてありました、閉めれば出入りが出来なくなって巣作りを諦めるだろうと思い一匹が入ったのを見計らって閉じてみました。
しばらく見ているとシャッターの隙間から向こう側で動くのが見えました、やがて端のほうの少し大きな隙間から無理やり這い出して来るではありませんか。シャッターの溝に塵が詰まっていてきっちり閉まらず端のほうには隙間が出来ていました。大きくて強そうな顎で辺りを齧って隙間を広げようとしているようです。これでは隙間の部分にガムテープを張ってもすぐに破られそうです。
しかし出入りするのには時間がかかってようやく這い出してくるのが見えましたのでこれなら必殺のスプレーで狙い撃ちできそうです。しかしスプレーの使用注意には大型のスズメバチは危険だから使用しないようにと記載されています。
よし、いくら獰猛な大スズメバチでも身動き不自由で一対一なら大丈夫仕留められるぞと思い、じっくり狙えるようにと射程内の木陰にキャンプ用のパイプ椅子を持ち出し暑い陽射しを避けながらスナイパーよろしくターゲットの現れるのを待ちました。
やがて空中に羽音がして数回その辺を飛び回り通風孔に向かいますが今までのようにすんなり入られず飛び去ります。しかしすぐに戻ってきて何とか入り込もうと隙間の辺りを狙っています。
やがて隙間に入り始め、すぐには反撃できない状態になった処を狙ってスプレーを発射、命中。昨日のクロスズメバチはほぼ即死状態だったのに、大スズメバチは強いようです、もがきながらも隙間から身体を抜き出しましたが反撃の余力は無いようです。中には数メートル飛び上がったのもいましたがすぐに墜落しました。巣の中にいたのが出てくる時は顔を出してきたらショットすると中側に落ちます。
いったい巣には何匹ほどいるのだろうか。こうして半日で十匹ほどを仕留めたらその後出て来ません、翌日も注意して見ていましたが出入りの形跡はありませんでした。巣作り始を始めたばかりだったのかもしれません。
かくして連日のスズメバチとの対戦は射程距離の長い蜂退治専用というスプレーを手にしたスナイパーの勝利となり、やがて遊びにきた孫たちが庭や家の周りで遊んでいるのを安心して見ていることが出来たのでした。
今日は雨模様で気温も低くなってしまった、やはり夏は暑いほうがいい、また暑さが戻ってほしいと思いながらこの原稿を書いています。
まるで『ゴルゴ13』にでもなったつもりの暑い夏の日の午後のことでした。 GPAPA


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