「雪かき今昔」 Gpapaさん記
雪かき今昔
私の記憶に残っている大雪の風景はいくつか在りますが、子供の頃には日常的な冬の風景であってあまり驚かなかったように思います。また最近は雪の量そのものが少なくなってきているようで大吹雪の記憶は減って来ています。
台所から障子を開けて入るとそこが八畳の居間になっていました。畳一畳分くらいの大きさの板敷きがあり、そこにストーブ台に乗った大きな薪ストーブが赤々と燃え、脇には薪を入れたリンゴの木箱がおかれていました。吹雪の翌朝はその周りに陣取り髪の毛が煙突に触れてちりちりと焦げるほどにしながら暖をとっていたものでした。ストーブ台の正面がおばあちゃんの定位置で、火バサミで始終薪の燃え具合を確かめていました。やがてカタカタという音とともに東側の窓にぽっかりと雪穴が開き、光が畳の上に四角く射しこんできました、あ、開いた、開いたぞと小さな兄弟達はストーブから離れ一斉に窓際にかけよって父親の雪掻き姿を僅かに開いた雪穴から見上げるのでした。父が手にしているのは自家製の雪掻きスコップです、30センチに50センチくらいの長方形の板の短辺に5センチ巾の板を縦に打ち付け平板の中央辺りと5センチ巾の縁板の上を軸にに丸く削った長い柄が釘で打ち付けてある素朴な雪掻きスコップです。
手を休め陽光を背にして汗を拭く父親の首筋から湯気が立ち上るのを眺め、とうさんは力があるなあと兄弟で感心しながら囁いていました。雪山に縦、横と区切りを入れ掬い上げると綺麗に四角い塊が除かれ、段々と雪山が平になっていくのが面白く飽きずに眺めているのでした。家の裏手に向かって捨てられた雪の山は朝食後の兄弟達のスキーや橇ですべる格好の遊び場になるのでした。
大雪の北見市(GPAPAさん提供) |
この度(2004/1/14〜16)北見市では観測開始以来初めてという大雪に見舞われました。道内でも寒さは厳しい方の北見ですが積雪は少ないので慣れない市民は大慌てでした。我が家は市内でも北の山裾に広がる住宅街に在るので、山の方から吹き降ろす風が雪を運んで屋根をジャンプ台にして南側の玄関前やテラスの前に吹き溜まりを作り、其処に停めてあったマイカーは完全に雪の下に埋まってしまいました。
ようやく風が収まって来たのを見計らい掘り出しにかかりました。雪掻きでは腰を痛めることが多いので無理をしないようにと各地の友人知人から雪害見舞いと、ご注意をいただきました。歳のことを考えるようにとのご注意は尤もと思い、少しやっては休憩するように気を付けましたが今回の雪掻きは今までとは少々事情が違っていました。
今までの雪掻きはスコップで掬っては数メートル先に放るか、通称「ママさんダンプ」といわれる手押しの雪掻きで押しはこびをするのが普通で、いずれもやや前かがみの姿勢で作業が続くので腰を痛める事が多いのでした。ところが今回は胸までの雪に埋まりながら目線辺りの雪を掬いそのまま頭上に放り出さなければならず、首や肩や腕に負担がかかり長時間の作業などはとても無理なのです。
いくらボロでも車の屋根をスコップで傷つけるにはおしいので慎重になります、あと少しかなと思ったとき突然ボコンと音がして車の上の雪がルーフの形に跳ね上がりびっくりしました、雪の重さでスプリングがいっぱいに沈んでいたのが元に戻ったのです、ようやく掘り出した車も走る道路に除雪ブルドーザーが入らないことにはどうにもなりません、玄関から道路までは人が歩ける幅だけなんとか確保しましたが居間の南側に積もった雪には手が回りませんでした。日中は晴れてさえ居ればガラス張りのテラスから明るい陽射が射し込み、どんなに冷え込んだ日でもストーブを停めていられるのですが今日はストーブも照明も点けたままです。
東側にある私の部屋ではFF式の石油ストーブを使用していて排気管は窓の下にありますが今まで雪の下になったことはありませんでした。それが今回は幾度も除雪しないと埋まってしまいます、玄関からかろうじて這いだし胸までの雪をかき分けながらの作業でした。市内でもこの排気管が雪に埋まり不完全燃焼が原因の事故が報じられていました。
降り始めてから二三日も経つと雪は段々に重くなりプラスチック製の雪掻きにひびが入り使えなくなってしまいました、ようやく開いた一車線の道を苦労してホームセンターまで雪掻きスコップを買いに行きましたが全て売り切れでした、入荷には二三日かかるとか、そのとき昔々父親が手作りの雪掻きを使っていたのを思い出したのでした。
寒さを凌ぐ暖房も薪、石炭ストーブから電気、石油ストーブに、板の雪掻きはプラスチックに代ったかとの思いに耽っているとベルが鳴り、孫からの電話です、じいちゃん雪掻きすんだかい?
昔日、薪ストーブの煙突で髪の毛を焦し、僅かに開いた窓の雪穴から父親の雪掻き姿を眺めていた私が、今日は孫から雪害見舞いの電話を雪掻きに疲れて横になったソファーで受けているのでした。(GPAPA)
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